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ステンレス鋼の溶接技術の基礎知識
製品情報
―耐食性を保ち、変形を防ぐために知っておくべき溶接の原理と実務ポイント―
1. ステンレス鋼とは何か?その特性と分類
ステンレス鋼は鉄にクロムを10.5%以上添加することで耐食性を持たせた合金鋼であり、屋外構造物や食品機械、化学プラント、医療機器など多様な用途に用いられています。特に大気中や水中でも錆びにくく、清掃性や強度の面でも優れていることが特徴です。
ステンレス鋼は大きく以下の4系統に分類されます。
- オーステナイト系(SUS304、SUS316など):耐食性が高く、最も一般的。非磁性。
- フェライト系(SUS430など):磁性あり、コストが低く成形性良好。
- マルテンサイト系(SUS410など):硬化性が高く、刃物などに使用。
- 二相系(SUS329J1など):フェライトとオーステナイトの混合で高強度・高耐食。
これらの系統ごとに溶接時の挙動や欠陥の傾向が異なるため、材料の特性を理解しておくことは溶接作業において極めて重要です。
2. ステンレス鋼溶接の主な方法と特徴
ステンレス鋼の溶接では、用途や板厚、品質要件に応じて様々な溶接法が用いられます。代表的なものは以下の通りです。
1. TIG溶接(タングステン不活性ガスアーク溶接)
薄板の精密溶接に適しており、低スパッタで美しいビードが得られます。熱入力を制御しやすく、オーステナイト系や薄物のステンレスに広く使われます。
2. MIG溶接(半自動溶接)
効率性を求められる中厚板に適しています。溶接速度が速く、作業性に優れていますが、スパッタやビード外観の仕上がりにはTIGより劣ります。
3. レーザー溶接・プラズマ溶接
精密機器や高品質が求められる分野で使われます。熱影響部が小さく、変形が抑えられるのが特徴です。
4. 抵抗溶接(スポット溶接)
板金の接合に使われる方式で、自動車部品や家電に採用されています。
それぞれの方法には長所と短所があり、求められる品質や生産性に応じて適切な工法を選定する必要があります。
3. ステンレス鋼の溶接では、以下のような欠陥が発生しやすく、材料特性に起因した現象も多く見られます。
- 割れ(熱割れ・凝固割れ):過度な熱入力や不適切な溶接材料によって発生。特にオーステナイト系で注意が必要。
- 変形・歪み:線膨張係数が高いため、溶接時に大きな収縮応力が発生。仮付けや治具、逆反り設計などで対応。
- 酸化・黒皮形成:高温酸化により耐食性が損なわれる。アルゴンガスによるシールド、背面保護が重要。
- ピット腐食・粒界腐食:溶接後の不動態皮膜の破壊や炭化物析出に起因。適切な後処理(酸洗・電解研磨)で防止。
これらの欠陥を防ぐには、事前の材料確認、適切な溶接条件、溶接後の処理工程が不可欠です。
4. 溶接品質を安定させる管理と評価
品質を安定させるには、作業員の技能だけでなく、設備管理、溶接条件の記録、検査体制の整備も欠かせません。
- WPS(溶接施工仕様書)とPQR(溶接手順適格性記録)の整備
溶接条件を標準化し、再現性を確保するために不可欠です。
- 非破壊検査(PT、VT、RTなど)
外観・浸透探傷・X線検査などを用いて、欠陥の有無を確認します。
- トレーサビリティ管理
溶接箇所ごとに誰が、いつ、どの条件で溶接したかを記録しておくことで、品質保証体制を強化できます。
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